第五分科会

写真提供:福岡市 

タイトル

「界面の構造と分光の分子シミュレーション」


 紹介文

液体界面は我々の身の回りにありふれています。例えば,地球大気は海洋表面と接しています。また,大気中には微小な数多くのエアロゾル粒子が浮遊しており,それらの表面積の合計は地球表面積の100倍以上にもなるといわれています。そのため,大気化学の分野ではグローバルな大気環境がエアロゾル表面に存在する分子と気相分子との不均質反応によって大きく影響を受けると考えられています。このような不均質場での反応過程を理解するためには,エアロゾル表面,つまり液体表面に活性な分子種,分子配向,水素結合環境などの「構造」を理解する必要があります。しかし,液体界面の構造をプローブする実験手段は非常に限られています。例えば,光電子分光法などの実験では,気相側を真空にせねばならず,蒸発が生じる液体界面の構造を特定するにはいくらか困難を伴います。また,界面深さ方向の分解能という観点からも,それらの方法で得られる情報にはあいまいさが伴います。一方,界面を選択的にプローブする手法として発展してきた分光法として,2次の非線形光学過程を利用した和周波発生(Sum Frequency Generation, SFG)分光法があります。この分光法では,2種類の入射電場を界面に照射し,界面に生じる2次分極の影響により発生するSFG光をプローブします。このSFG光は,原理的に対称性が破れた領域からのみシグナルを発生するため,バルクの気相や液相領域では禁制,界面のような領域で許容となります。また,入射する2つの光のうちの1つを赤外光で掃引することにより,それに共鳴した波数の分子振動を特定できるため,界面敏感な振動和周波(Vibrational SFG, VSFG)分光法として利用できます。さらに,水溶液系の問題に限っていえば,水のOH振動が水素結合環境に敏感に応答しスペクトルシフトが起こるため,界面での詳細な水素結合構造が議論できます。しかし,界面振動スペクトルもまた,その解釈にはしばしば曖昧さを伴います。これは,実験では界面での複数の構造に起因するスペクトルの成分が全て重なった結果として全体の1つのスペクトルが観測され,そのスペクトルを一意的に分解することが難しいからです。この問題に対してVSFG分光法に対する「理論」による解析が有効です。本分科会では,分子シミュレーションにより界面構造とともにVSFGスペクトルを第一原理的に計算する手法を学び,実験だけでは解釈が難しい問題にそれらの手法をいかに応用していくかを学びます。受講者の対象として,理論研究者のみならず実験研究者を志す学生の参加を歓迎します。

分科会担当者コメント

担当:高山 哲侑

第五分科会では富山大学の石山達也先生を講師にお招きします.石山先生は量子化学計算や分子動力学(MD)シミュレーションなどの理論計算を専門として表面や界面の分子構造,ダイナミクスの研究をされています.

界面は異なる相の分子と分子が出会う場所であり,多くの重要な物理化学的現象はバルクではなく界面で起こると考えられています.このような界面を選択的にプローブできる強力な分光手法として和周波発生(Sum Frequency Generation)分光法が挙げられます.SFG分光法によって得られたスペクトルを正しく解釈するには理論計算と実験の両面からのアプローチが極めて有効です.理論計算を用いて実験結果を解析することで,得られた実験結果がどのような分子論的描像に基づいているのか,分子の世界を直接観察することで理解することができます.

本分科会では分子シミュレーションの基礎からはじまり,SFGスペクトルの計算方法とその応用まで幅広く講義していただきます.理論が専門の方はもちろん,分子シミュレーションに興味のある方,実験が専門の方の参加もお待ちしています.

ぜひ第五分科会で一緒に楽しく学びましょう!