第四分科会

写真提供:福岡市 

タイトル

「ラマン分光法の基礎と応用」


 紹介文


本分科会では、ラマン分光法について議論します。大きく基礎パートと応用パートに分けて講義を進めたいと考えています。


基礎パートでは、半古典論をベースにラマン散乱を導いて、ラマン散乱に関するあれこれ(選択律、共鳴ラマン、偏光則など)を議論する予定です。この講義をするにあたって色々と教科書など見てみたのですが、自発ラマン散乱過程を扱う時に場の量子論を用いている文献が多く、学習のハードルの高さにつながっているように思いました。自発ラマン散乱を記述する基盤となるKHDの分散式はKramersとHeisenbergによって半古典的に、Diracによって量子論的に導出されたと言われていますが、KramersとHeisenbergによる導出がドイツ語でしか読めない上に難解なので、このようなことになっているような気がします。半古典論でも見通しよくラマン散乱過程を導出でき、共鳴ラマンや偏光則などにも応用できますので、そのように議論を進めようと思います。また、CARSやSRSなどのコヒーレントラマン散乱も現代的には重要ですので、このあたりもしっかり時間をとって導出する予定です。ラマン散乱の定式化をブラックボックス無しで理解するのが基礎パートのゴールです。線形の場合でも、非線形の場合でも、基本的にやっていることは、(時間的に変化する)電場中でハミルトニアンを書き下して、(誘起)双極子モーメントを摂動論にもとづいて計算するだけなので、量子力学を学んだあとの摂動論の運用の練習として受講してもいいと思います。


応用パートでは、ラマン分光法を用いた最近の研究(イメージングや表面増強ラマンなど)を、論文を輪読しながら紹介していく予定です。また、最近流行りの情報科学的アプローチ(圧縮センシングによる測定の高速化や深層学習を用いた医療診断など)も時間をかけて議論したいと思います。情報科学と計測の融合はラマン分光/イメージングに限らず、あらゆる分野で活発に研究が進められています。情報科学サイドの方法論は急速に発達していますが、結局この手の研究が真価を発揮できるかは、使い手がどう問題設定をして、どの段階で機械学習を用いるかにかかってくると思います。ラマン分光を軸として、一通り機械学習の方法論をさらったあと、参加者の皆さんと分光研究(あるいは広く分子科学研究)にどう機械学習的アプローチを使えるかといった議論もできれば嬉しいです。

第四分科会担当者コメント

担当:正信 誠

 第四分科会では東京大学の平松光太郎先生を講師としてお招きいたします。平松先生はラマン分光法を用いた新しい計測技術の開発や,それを応用した大規模な単一細胞解析など,広範な分野でご活躍されています。

ラマン分光法はラマン散乱を利用して分子の振動状態や結晶の構造など物質の性質を調べる分光手法です。生命科学や薬学,物性科学といったその応用範囲の広さから,分光学を専門としない方も名前ぐらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか?本講義ではラマン分光法の基礎の基礎から最先端の応用までを扱っていただきますので,前提知識や専門分野を問わず幅広い方々にとって有意義な講義になると考えています。本分科会を担当させていただく私自身も実験はもとよりラマン分光法について深く勉強をしたことがないので,このような体系的に勉強できる機会を楽しみにしております。

ご自身の研究でなんらかのラマン分光をされている方だけでなく,純粋にラマン分光に関心のある方(私もこちらのパターンなのですが)など,興味を持っていただいた方々のご参加を心よりお待ちしております。